あなたが教えてくれた世界
神話で賢者の国と称されるように、プラニ アスでは法や規則がしっかりしていて、反 乱などはあまり起こらないと言う。
また、軍備の面ではど他国に劣るため、戦 争に加わらず中立国を保っている。そんな 面もふまえ、リリアス自身もプラニアスに は興味をもっていた。
セントハーヴェス侯爵は、グランディア公 爵の紹介を聞いて表情を明るくさせた。
「こちらがリリアス嬢か!!噂に違わぬお美 しい。何卒よろしくお願いいたしますよ」
「……いえいえ、こちらこそ。ところで、 本国には何の目的で?」
リリアスは無邪気を装って慎重に探りを入 れる。いくらプラニアス人と言えども、い や、『賢者の民』と呼ばれる人種だからこ そ、彼女は心を許していなかった。
彼の言動や表情は素直さを感じさせるが、 雰囲気や瞳はグランディア公爵と同じ位油 断がならなかった。この人、かなりタヌキ だ。
宮廷界において、このような人はかなり有 能で地位が高い。そんな者が、のんきに留 学なんかに来るだろうか?
「父の命令でね。『お前は世間を知らなす ぎる。外国に行って周りを見てこい』だと か言われたかな。それと、グランディア公 爵が父の古い知り合いで」
「そうなんですか」
アルディスは思わず笑った。演技だとはわ かっていても、彼が話し方や声色を真似し ている様子が面白かった。
「しかし、ここに来てその言葉が正しかっ た事を実感したよ。違う文化や人との交流 で、確実に僕の世界が広がった」
「それでは、国に帰った時お父上にこの国 の事を沢山報告できますね」
彼女は含みのある口調で言う。これは宮廷 界の探りあいの言葉の応用だ。
今の言葉の『お父上』は彼を送った組織の ボスと言う意味。『この国の事』とは特に 政治上の機密情報の意味合いをもつ。
つまり、『スパイですか?』と聞いたのだ 。
根拠は無いが、この手の者は機密情報収集 を行う裏の顔をもつのでは無いかと思った のだ。
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