あなたが教えてくれた世界
それを見送ってから、ふと我に返ったハリスも慌てて後を追う。
「……まって!どうしてにげるの?」
視界の向こうでちらつく小さな影を追いながら、彼は大きく叫ぶ。
「……こないで!」
同じく叫び声が返ってきた、その刹那──。
「きゃあっ!」
ハリスの様子を確認するために振り返ったために、木の根に躓いて、少女の体がぐらりと傾いた。
どさっ、という音を聞いて、ハリスはさらに慌てて足を早める。
「だいじょうぶ!?」
追い付いて、急いで助け起こすと、びっくりしたようにこちらを見る彼女と目があった。
それからすぐフードがとれてしまったことに気がつき、慌てて引き被る少女に構わず、ハリスは転んだときに打ち付けたであろう膝を確認する。
少し擦りむけてはいたが、出血はしていない。その事に安堵して、彼は口を開いた。
「あし、いたくない?だいじょうぶ?」
「う、うん……」
戸惑ったように頷いてから、オリビアはフードをしっかりと押さえつつ、恐る恐る聞く。
「あの、あなたは……わたしのかみのけ、へんだとおもわないの?」
「かみのけ?」
おうむ返しに言葉を繰り返してから、ハリスはああそうかと合点した。
やたらフードを気にしていたのは、髪の毛を見せない、見られたくないためだったのか。
ハリスは少女の顔を覗き込む。顔に貼り付いた前髪は、綺麗な、少し青みがかった透き通った銀色をしていた。
「……きれいな、かみだなっておもうよ」
思うまま、そう口を開くと、少女の瞳が見開かれた。
「……ほんとう?」
「うん」
「……!」
「だから、それ、かぶらないでほしいな……だめ?」