あなたが教えてくれた世界
──この後味の悪さは、自分の後悔からきているものなのか。
去り際に見た侍女の、ひどく傷ついた表情を思い出す。
あの時の自分は、どこかおかしかった。
アルディスについての話を聞いて、どうにも気に入らず……結果としてオリビアに放った言葉は、恐らくただの八つ当たりだ。
どうしてアルディスのことでこれほどまで引っ掛かるのか……と考えかけて、ふと視界の端に人影が映った。
風になびく茶髪から、どこかへふらふらしていたカルロが戻ってきたのだとわかる。
(……そう言えば、あいつの様子もおかしかった)
それを見て思い出す、先ほどの彼の様子。
なんだかいつもより雰囲気に鬼気迫るものがあり、いつもの彼を知っていると不気味なほど戸惑うものだった。
そしてその妙な空気感は、まだカルロに纏わりついていた。
しかしイグナスは、構うことなく彼の近くへと足を進めた。
「……やあ、イグナス」
あと数歩というところで、ゆっくりとカルロが視線を向けてくる。
「相変わらず仏頂面してるねえ。さっきなんていきなりだからびっくりしたよ」
へらへらとしたその笑みと、軽い口調は変わらない、けれど。
「…………」
イグナスが何の反応を示さないと、カルロもそれ以上追及しようとしなくなる。
必然的に、重くのしかかる、沈黙。
これまでなら、イグナスの黙圧に構わず、一人でぺらぺらと喋っていただろう、カルロ。
……お前は今、何を考えている?
少し離れたところにある、どこを見ているかわからないその横顔を見つめ、イグナスは溜め息をぐっとこらえてそんなことを思った。