あなたが教えてくれた世界
「……どうなの?イグナスは」
カルロの問い掛けに、イグナスははっと我にかえった。
そして少し考えて、口を開く。
「……俺は、一度受けた任務は、最後までやり通す。」
意志の曲がらない声で言うと、半ば予想がついていたというようにカルロは息を吐いた。
「騎士としての矜持、か……。立派だね」
一見揶揄にも聞こえるそれには、なぜか距離をおくような冷たい響きが含まれていた。
「…………」
イグナスには、返す言葉が見つからなかった。
ただ、目の前の男が……級友が、何を考えているのか、どこか遠くへ行ってしまうのではないか、そんな漠然とした不安が吹き荒れる。
「……おい、カルロ」
イグナスが口を開こうとした、その時。
「……遅くなって悪いね。分担が決まったよ」
突如背後からハリスの声が割り込んでくる。降りてきたようだ。
二人は彼の前に整列する。ブレンダも戻ってきて、カルロの隣で同じ姿勢になった。
「……先に僕とイグナスが見張りをする。カルロとブレンダは仮眠をとってきて。部屋は、さっき僕達が話していた場所。オリビアとアルディス様は奥の部屋で休んでいるよ。少ししたら起きてきて、僕達と見張りを代わってくれ。」
「……はっ」
三人同時に返事をする。
「それじゃあ、解散で。僕は正面を担当するから、イグナスは裏口を見て」
「はっ」
二度目の返事と共に、騎士は自分の持ち場へと向かい始めた。
「……おい、カルロ」
イグナスは、ふらりと背を向けるカルロを呼び止めた。
「……お前、何を考えている?」
わざわざ、呼び止めてまで。
どうしても、聞いておかなければならない気がした。
カルロは何も答えず、にやりと微笑む。
そして背を向け、『おやすみ』と言うようにイグナスに向けて右手を上げた。
空に浮かぶ月は、今にも消えてしまいそうなほど欠けていた。