あなたが教えてくれた世界
(そうだ……オリビアに寝かしつけてもらったんだっけ……)
曖昧な記憶を手繰り寄せていると。
(うっ……)
頭の隅に、鈍い痛みを感じた。
ずきずきと、彼女の思考を蝕んでいくかのようなそれに耐えかねて、彼女は手で頭を押さえる。
この痛みは、初めてではなかった。
(リリアスが……外に出ようとしている……)
昨晩無理矢理に呼び出したからだろう。
いつも封じ込めている扉が弱くなって、リリアスが、外に出ようともがいている、とアルディスは感じていた。
(だめ……!)
両手で、痛みを抱え込むように頭を押さえ、何度か呼吸を整える。
やがて痛みは、徐々に、徐々に薄らいで、消えた。
(良かった……)
ほっと息をつく。
最近痛みが大きくなってきている。消えるまでの時間も、段々と長くなっている気がする。
それが何を意味するのか。
(やめよう……)
浮かんだ疑念を、首を振って追い払う。
それと同時に、隣のベッドで眠るオリビアの存在に気が付いた。
その姿に、目を見張る。今まで、彼女が眠っている姿を、目にしたことはなかったから。
朝が早い宮殿の女の世話をする侍女たちは、その数段早く、まだ日も昇らないうちに起き出す。仕事熱心なオリビアは、いつも寝坊することなく、毎朝爽やかな笑顔で彼女を起こしにきていた。
そのオリビアが、アルディスの隣で、すやすやと眠っている……。
よっぽど疲れていたのだろう、とアルディスは思った。こまめに仮眠をとっていたアルディスとは違い、オリビアはここ三日間、ろくに寝ていなかったのではないだろうか。
しかも日が眩しいといっても、日の高さから見るに、時刻はまだ日の出が終わった辺り、早朝の時間帯のようだった。
まだ寝せておいてあげよう、とアルディスは判断したが、眠気が覚めてしまっていたので、一度外へ出ようと音をたてずに静かに立ち上がった。