あなたが教えてくれた世界
音をたてないように通りすぎて、扉をそっと開ける。
そして、廊下に顔を出したところで──
「……あ」
顔を突き合わせて、二人同時にそんな声をあげる。
そこには、同じく今まさに隣の部屋から廊下に出ようとした様子のイグナスがいた。
「……」
二人揃って、呆然と見つめ合い。
それからはっとしたように廊下へ出、後ろ手に扉を閉めた。
「……おはよう」
「……ああ」
昨晩、"リリアス"として彼の前に姿を現した記憶がよぎり、何となく気まずい。
お互いに続く言葉が見当たらず、二人揃って無言のまま、とりあえず外に出ようと階段を下った。
一階に出たところで、二人の姿を目敏く見つけたカルロがこちらに顔を覗かせる。
「おっはよーう。あれイグナスもう交代だっけ?あ、アルディスさんもおはようございますー」
にこやかな出迎えに二人して圧倒されたあと、
「……なんだよ、いつも通りかよ」
と隣のイグナスがぼそっと呟いたのが聞こえる。
「違う。さっき代わったばっかだろ。目が覚めただけだ。」
それからバッサリとイグナスが言い捨てると、カルロは不満そうに唇を尖らせる。
「ちぇー。代わってくれても良いんだけどなぁー」
「うるさい。お前はもう少し働け。」
へいへい、とイグナス小言を聞き流して、カルロは次にアルディスの方を向いた。
「こいつ本当に冗談通じなくて。アルディスさんも気ぃつけた方がいいっすよ。……あ、リリアスさんって呼んだ方が良いんすかね?」
リリアスという単語に、アルディスは思わずびくりと肩を震わせた。
そして、なぜかカルロを見てぞくりとする。
薄ら笑いさえ浮かべ、純粋な疑問というように訊ねておきながら、その目は獲物を狙う蛇のような暗い光をたたえている、ように思えた。
「……あ、あの……」