あなたが教えてくれた世界
アルディスの様子を怪訝そうに眺めながら、イグナスは言った。
「……あっそ。……戻るぞ。そろそろ起きる頃だろう」
「あ……はい」
内心のもやもやは脇にどかしながら、アルディスは後ろ姿に従った。
「……あら、アルディスおはよう。起きたなら声をかけてくれたなら良かったのに」
部屋へ戻ると、起き出してハリスと話をしていたオリビアがすぐに振り向いた。
「うん……」
気持ち良さそうに寝てたから、という言葉が追い付かず、アルディスはただ頷いた。
「朝アルディスがいなくてびっくりしたんだから……まあ大丈夫でしょうとは思っていたけど」
そう言って微笑むオリビア。
しかし、アルディスの後ろからイグナスが顔を覗かせた瞬間、彼女の表情が凍った。
(……?)
予想外の彼女の反応に、アルディスは目を丸くした。
それまであれほど快活に喋っていたのに、突然言葉を切り、気まずそうに視線すら向けていない。
イグナスはと見ると、彼女ほどあからさまではないにしろ、やはりどこかばつが悪そうな表情をしている、気がする。
(何かあったの……?)
記憶をさらってみても、二人がぎくしゃくする原因となる出来事に覚えはない。
ハリスもまたそんな二人の様子を複雑そうに眺めている。
それぞれ発する言葉もなく、一瞬沈黙が舞い降りた、その時。
「お待たせしましたー。戻りましたよー!」
軽快に扉が開き、能天気な声が飛び込んでくる。
四人の視線が集まるなか、上機嫌なカルロとその隣で溜め息をこらえているといった表情のブレンダが部屋に入ってきた。どうやらハリスが呼んでいたらしい。
「あ、ああ、全員揃ったね……」
まだ少し複雑そうなハリスだったが、彼らの登場に口火を切り始めた。