あなたが教えてくれた世界
「……ええっと、それじゃあブレンダ。見張りをしていて何か変わったことはあったかい?」
ハリスの問いに、ブレンダは姿勢を正し、答える。
「……特には。人通りそのものが少なく、怪しい気配も感じませんでした。」
ハリスは彼女の答えに頷きながら、言葉を続けた。
「そうだね。僕達の時もそうだった。追っ手は完璧に撒けたと考えて良いだろう」
それぞれが、その言葉に頷く。
「そこで提案なんだ。昨日の件を受けて、これからの行程の見直しをしようと思う。滞在させてもらう予定だった貴族も、もう一度見直すべきだと思う。ここはのどかな町だし、二、三日留まって考える時間をくれないか。武器や食料の補給とかもあるだろうし」
「異論ないわ」
すぐに、オリビアが頷く。
「俺も」
「俺もっす」
「私も同じく」
騎士たちも口々に賛成の意を示し、ハリスは安堵の表情をした。
「良かった。それじゃあ、見直しの方は僕たちで進めておくから、君たちは一応、自由行動で。ただ、交代で誰かしらアルディス様の側についてて」
「はっ」
騎士たちの揃った返事が響く。
「……ああ、あと、わかってると思うけど、アルディス様の正体は知られないようにね。こんな小さな町だけど、反乱勢力の芽は存在するみたいだから」
話が済んだようだと踵を返す直前、思い出したようにハリスが付け足した。
「……わかりました」
「うん、よろしくね」
そう言うとハリスは、話はもう良いよと言うように微笑んだ。
* * *
「……アルディス様、喉は渇きませんか?」
部屋で景色を眺めているアルディスに、ブレンダは声をかけた。
「いえ……まだ結構です」
小さな声の返事を聞き、ブレンダはティーポットに伸ばしていた手を手持ちぶさたに下ろした。