あなたが教えてくれた世界
「そうですか……」
中途半端に答えながら、ブレンダはぼんやりと外を眺めるアルディスの横顔を見つめた。
(このように慎まやかにされていても、その正体は皇女様……!)
そう思うと、ブレンダの背にぴりっとした緊張が走る。
(部屋に入ってからこのかた、ずっと悩ましげな表情をしておいでで……きっと心労も多いのだろうな)
朝の会議が終わってしばらくたつが、それから一度も動かずにぼんやりとしているアルディス。
ブレンダは無理に話を聞くことは出来ないと思いつつ、なんとかしてあげたいという願望が鎌首をもたげているのを自覚していた。
(……せめて何か、気を紛らすことが出来たら)
その結論に辿り着いたブレンダは、一つの提案を思い浮かべる。
「……アルディス様、少し、散歩をしませんか?」
彼女の言葉に、アルディスはゆっくりと視線を上げた。
「散歩……?」
小さな声で聞き返され、ブレンダは大きく頷いた。
「そうです。せっかく滞在するのですし、ずっと部屋に籠るのも何でしょう?見るところはないかもしれませんが、町を歩いて見てまわりませんか?私がお側でお守り致しますし」
そう言ってから不意に不安に陥って、ブレンダはアルディスの様子を窺った。
(もしかして、こんな小さな町に興味はなかっただろうか……?)
ところが、その考えとは裏腹に、一拍の間をおいて、アルディスの表情は明るくなり始める。
「散歩……行ってみたいです」
「……わかりました。では、行ってみましょうか」
内心で胸を撫で下ろしながら、ブレンダは微笑んで頷いた。
三十分後。
地味な庶民の服を纏い、桜色の髪をお下げにして目立たないようバンダナを被ったアルディスは、ブレンダと共に町の通りにいた。
「こちらは市場のようですね。人通りも多くなるので、どうぞ私から離れないようにして下さい」