あなたが教えてくれた世界



「わかりました、誰かと会ったら交代します」


心配させないようにとそう言って笑顔を向けるが、アルディスは納得のいかないという様子であちこち見回している。


そして。


「……イグナス」


ぽつりと騎士の一人である男の名を呟いて、遠くを指差す。


「えっ?」


つられてブレンダもその方向を見やると、武器屋らしき店から出てきたそれらしき姿が目に入る。


遠目ではっきりないが、あの黒髪と騎士服から、確かにイグナスその人だろう。


「……交代、です」


淡々と呟かれ、ブレンダは降参ですという思いで頷いた。


「……わかりました。ちょっとあいつを捕まえてきます」


そう言って歩き出すブレンダの姿を見送りながら、アルディスはほっと息をつく。


はっきりとは聞こえなかったけれど、彼女からは激しく混乱している感情が伝わってきていた。


だからアルディスは、恐らく自分では何も出来ないと思い、早く彼女を一人にしてあげようと思ったのだ。


イグナスのもとへついたブレンダが何事か話しているのを、アルディスはその場所で見守る。


と、


カランコロン……


すぐ側でそんな音がして、アルディスがはっとすると同時に、背中に小さな衝撃が走る。


「わ……」


小さく声を溢しながら、アルディスはバランスを崩しかけた、が。


「……申し訳ありません。大丈夫ですか」


後ろから優しく支えられるとともに、そんな声が降ってきた。


「……?」


アルディスが振り向くと、そこには。


(神官、さん……?)


教会のものと思われる、黒い礼拝服を身に纏った、ひどく中性的で綺麗な顔をした者の姿が目に映る。


身長は、旅の六人の中で一番長身なハリスよりもいくばくか高く、特徴的な赤い髪は後ろで一つに束ねられている。


その後ろには半開きの扉があり、この人が建物の中から出ようと扉を開けたことで、アルディスが突き飛ばされたのだと理解した。



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