あなたが教えてくれた世界
アルディスは聞き耳をたてているのを気付かれないようにしながらも、しかしその手は動きを止めてしまう。
「……どこですか。討伐の日取りは?武具を揃えてきます」
イグナスが眉を潜めながら、当たり前のようにそう反応すると、ハリスは慌てて首を振る。
「違う違う。まだばれてないみたいだし、こちらから仕掛けたりはしないよ。それに派閥が微妙に違うみたいだから、必ずしもアルディス様を襲うとは限らないし。」
その言葉を聞くと、イグナスはいつの間にか剣の上に移動させていた手を下ろし、「……そうですか」と返事をした。
「一応掴んだ情報は、二人にも伝えておこうと思って。これからはそのことを踏まえて護衛にあたってほしい」
「……はっ」
二人の騎士は、揃った掛け声で了解を示した。
ハリスはそれを頷きながら見ると、今いない一人の姿をさがすように視線をさ迷わせた。
「……カルロは、いないのかな」
一瞬の間ののち、気まずげに発せられたハリスの言葉に、イグナスもブレンダも俯くこと以外の返事を返すことが出来ない。
「……少し前に、出掛けて行きました」
躊躇いがちにブレンダが口を開くと、三人の間に微妙な沈黙が下りる。
「……実はね、カルロにこの話を伝えるべきかどうか、少し迷っていたんだ。」
ハリスが言いにくそうに切り出す。
「昨日から、態度がおかしかっただろう?一応様子は見るつもりだったんだけど……」
「……そう、ですね……」
ハリスは思案するように視線を伏せたあと、決心したようにぱっとイグナスとブレンダの方を見た。
「……悪いんだけど、この件は二人に任せても良いかな。時間が出来たら教えてあげてもらえると助かる。」
判断を二人に委ねると暗に告げ、ハリスは微笑んだ。
「あ、一応報告は頼むよ。どうなっているのか把握しておきたいからね」
「……わかりました」
重々しく、ブレンダが頷く。
「うん、それじゃあ引き続き頼んだよ。僕は隣の部屋にいるから、何かあったら呼んで」
話はもう終わりと言うように、その言葉を残してハリスが戻っていくのが見えた。