あなたが教えてくれた世界
侯爵は周りを見渡しつつそう言う。
「はい……」
彼女の答えを聞くと、足早に階段を駆け下りていった。
廊下にはリリアスの他に誰もいなくなった。
不意にそれを意識した彼女は、心細くなりながらうずくまって小さく震える。
爆発から、まだ動悸がおさまっていなかった。
(……立たなきゃ……)
危険があったとき動けるようにとそう思ったが、足がすくんでいて立てない。
(どうしよう……)
侯爵も行ってしまって、今は自分一人だ。自分の身は自分で守らなければならない。
リリアスは情けなさに唇を噛んだ。
(私、何もできない……)
何があったかわからないが、とりあえず大変な事が起こっている。彼女にもそれくらいは理解できた。
それが引き金となって、彼女はあの記憶を思い出しそうになった。
人々。
怒号。
黒光りする刃物。
「ダメ……」
彼女は声に出すことで、思い出さないように自分に言い聞かせる。
と、彼女は空気に焦げ臭いにおいを感じ取った。
(……火?)
もしかして火事だろうか。それなら自分も行かなければならない。
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