あなたが教えてくれた世界
もう一度立とうとすると、今度は時間が経っていたので、ちゃんと立てた。
コツン……コツン……
長い階段に、自分の靴音があやしいくらい反響する。それは彼女のいいようのない不安を掻き立てた。
しかし、それもすぐに終わった。音を通しにくい二階から抜けると、階下の音が沢山聞こえてきたのだ。
まず聞こえるのは、婦人たちの激しい悲鳴である。
それから、炎のはぜるパチパチゴウゴウという音。
それから、これ以上ないくらいのざわめき。
時折護衛の騎士たちの誘導の声も聞こえるが、全く届いていなさそうだ。
ホールはパニックに包まれている。
またリリアスも、一歩進めるごとに、炎によると思われる熱気が強くなるのを感じた。
階段から降り立った彼女は、その光景に目を疑う。
目の前には、炎しか見えなかった。
(どうしよう……)
それもそのはずである。階段はホールの奥にあった。そして、出火元の厨房は、そのほんの少し手前にあったのだ。
(どうしよう……)
もう一度、自分に問いかける。少なくとも、ここから出口に進めなさそうなのは確かだ。
(そう言えば、お父様とレオドル様は……?)
二人の事を思い出し、心配になった彼女はすぐにきびすを返して走り出した。
──しかし、
「ええっ……?」
息をきらしながら階段を登りきった彼女は、今の二階の光景に先ほど以上に驚いた。
一階か外からか広がったのか、二階もわずかな隙間に火の海と化している。
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