あなたが教えてくれた世界
『こいつが、俺達の不幸の元凶だ』
『殺してしまえ!!』
『首をはねて、どぶに打ち捨てろ!!』
『殺せ、殺せ!!』
いつの間にか、彼女の目の前には、汚れた服を着た町衆と、薄汚れた貧民窟の景色が広がっていた。
『なぶり殺すのも良いが、人買いに売り出して夜伽の道具にするもまた一興……』
彼女を捕らえるよう命令した男が、よく通る低い声で呟くように言うと、ざわめきがまき起こった。
『それもそうだ……』
『屈辱を味あわせてやれ……』
『いや、反対だ!!』
『そうよ、私の子供はこいつらのせいで死んだのよ。命を奪わなきゃ納得出来ないわ!!』
アルディスは、頭上で繰り広げられる会話を聞きながら、目を見開いて震えていた。
『やっぱり、殺すか……』
『磔にして、広場に吊るそう』
『そうだ、それが良い!!』
会話の内容は理解できなかったが、とにかく危険だけは伝わってきたので、恐怖にかられて逃げ出そうとした。
『おい、ガキが逃げるぞ!!』
突然上から野太い腕がのびてきて、彼女はもとの場所に戻された。
『逃げようとするなんて生意気なガキだ』
一人の男が彼女に顔を近づけて苦々しく言った。
『生意気だ』
『憎い』
『見ろよ、あの髪。あれにかける金があれば、俺の息子はまだ生きてるんだぞ』
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