あなたが教えてくれた世界



『私の娘もよ!!』


『私の弟だって……』


と、いきなり無数の腕に彼女は押さえられ、次の瞬間、頭の後ろで鋭い音が聞こえた。


その瞬間群衆から沸き上がる歓声。


髪が切られたのだ。


アルディスのもとを離れた髪の束は群衆にばらまかれ、各々が好きなようにした。


憎々しげに握りしめる者もいれば、踏み潰す者、炎で燃やす者もいた。


彼女は恐怖にかられ、両手で耳をふさいだ。


それでも隙間から容赦なく入ってくる、醜い蛮声や怒号──。


どこかから少女の悲鳴が聞こえた。


それが自分の口から発せられている者だと気が付いたのは、叫び声に驚いたアンとオリビアが飛び込んできた時だった。




     *   *   *




「はい」


アンの前に、湯気をたてるあたたかな紅茶が差し出された。


「……ありがとうございます」


彼女は先輩使用人のオリビアにお礼を言って、一口飲んだ。


知らずに冷えていた体に、それは温かく染み渡る。


ここは王宮の使用人専用の休憩室だ。


狂ったように怯え、悲鳴をあげるアルディスをどうにかなだめた2人は、そのまま何となく立ち寄ったのだった。


オリビアは彼女と向き合うように椅子に座ると、言った。


「……びっくりした?」




        ─63─
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