あなたが教えてくれた世界
「へえ、どこの国なの?」
「ウラルデスの田舎です。父が借金を作っちゃって、夜逃げでこっちに来たんです……」
オリビアは納得したように言った。
「なるほどね。それじゃあ、あなたが仕えるのは王女のアルディス様よって言われたら名前はアルディスだと思うわよね……」
「はい……」
アンは居心地が悪くなって、先ほどの紅茶をもう一口飲んだ。
「普通はその名前は形式的なものだけなんだけど、あの子の場合、人格が完全に二つに割れちゃってるのよね……」
「どういう事ですか……?」
オリビアは静かに話し出した。
「見たでしょ。晩餐会のあの子。あれは普段のあの子が作り出した、両親が望む自分の姿よ」
「両親が望む……自分の姿……?」
「そう。大人しくて宮廷に不向きなあの子は、両親の残念な気持ちを感じ取っちゃったの。そんな頃、王女の存在の公表に伴って、リリアスと言う公式名がつけられたから、彼女は両親の理想をそのリリアスに形作っていったの」
アンは言葉を失った。想像の及ばない話だった。
オリビアはそこで言葉を切り、呟くように続ける。
「それでも最初の頃は心持ちを変える薬みたいなものだった。決定的に二つの人格が別れたのはあれがあってからよ……」
アンは少し身を乗り出した。何か、今の彼女と関係のあるエピソードの匂いがする。
しかし、オリビアはそのまま口を開かなかった。
「……あの、何があったんですか……?」
我慢できなくなってアンは問いかけた。
オリビアは一度アンを見て、それからゆっくりと答える。
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