あなたが教えてくれた世界
『心の声』って言うのは、その人が喜んでいるのか悲しんでいるのかとかのこと。近距離にいると何を考えているのかまで細かくわかるらしいわ。
今のあの子はそれを聞くかを意志にで調節出来るんだけど、その頃のあの子は『耳』を塞ぐ事が出来なかったの。
つまり、あの子の意志とは無関係に、聞きたくない事まで聞いてしまうって事よ。
これはあくまで私の憶測なんだけど、あの時アルディスは、狭い地下室で剥き出しの殺気とか憎しみをぶつけられたんじゃないかしら。
小さい頃って言うのは感応力が強いものなの。ちょっと悲しい感情を聞くだけで、自分自身もダメージを受けて滅入っちゃうくらいなの。
そんな頃に、殺気とか憎しみとか激しい感情を聞かされたら、もろく幼い心なんてすぐに壊れると思うわ……。
実際、あの子はそんな感じになった。一日中泣いて泣いて、寝たと思ったら悪夢で飛び起きてまた泣いて。
もう宮廷中が心配する程の騒ぎだったわ。あの子の泣き声、よく響いたから。
でも、1ヶ月くらいたったある日、突然ぷっつりと泣かなくなったの。
最初、私たちは安心したの。でも、すぐ新たな異変に気付いたの。
アルディスは、何の感情も出さなくなったの。一切笑わなくなったし、喋る事もなくなったの。
一日中無表情で微動だにせず座ってるの。もちろん、話しかければそれに従うんだけど。
当然晩餐会や公の場には出ないようになった。だって、出られない状態なんだもの。
でも、それは王家にとっては苦しいものだったの。当時、貴族とかの不満を、あの子と言う愛らしいマスコットが解消していたから。
だから、皇王様と女王様は、前にも増してあの子に出てくる事を望むようになった。
『耳』によって、あの子はそれを知ったわ。でも、あの子は応じられる余裕なんてなかった。
そんな中、あの子の中で『リリアス』と言う人格が具現化するようになっていったの。
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