あなたが教えてくれた世界



アルディスは母に呼ばれて、彼女が住んでいる離宮の薔薇園の外れにある楼閣に来ていた。


ちなみに、今のアルディスは『リリアス』である。


彼女を呼んだ主である母親は、静かな声で答えた。


「ええ、元気よ。私はあの火事で大した怪我もなかったもの。あなたこそ大丈夫?」


リリアスは自分の手足を見た。捻挫は医者にみてもらってすっかり良くなったが、火傷はまだ少し残っていた。


「まだ少し火傷が残っていますが、あとは大丈夫です」


それを聞いた母親は溜め息をついた。


「火傷をしたと言うのは『大丈夫』のうちに入りませんよ。アルディス、もう少し皇女と言う自覚をもって、自分を大切になさい」


そこで彼女はふっと声を落とした。


「皇女の自覚と言えば、作戦の事、風の便りで聞きましたわ。少し、感心出来ませんね」


そう言われても返す言葉がないので、リリアスは困ったようにうつむいた。


しかし、そこで彼女の声に温かみがまじる。


「……しかし、母親としてはこれは嬉しいことです。わが子を道具のように扱いたくはありませんから」


リリアスは思わず顔をあげた。


「……お母様……!!」


「アルディス、危険なことも沢山あると思うけど、決して、死ぬのではありません。これは私との約束よ」


彼女はしっかりと頷いた。


「わかりました」


「今日あなたを呼んだのはこれが言いたかったためです」


そう言うと、母親は微笑んだ。


そして、ふところから二つのものを取り出した。


それらをアルディスに手渡しながら、彼女はまた口を開く。


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