あなたが教えてくれた世界
「これは我が一族に伝わるお守りです。本当なら、女王継承式の時に渡したかったんだけど、今渡すわね」
それは、小さな青い石だった。
「それにはあなたが危険な時に助けてくれる力があると言われているの。持っていて損はないはずよ」
アルディスは興味深くその石を見つめる。が、今はただの石にしか見えなかった。
そんな彼女に関わらず、母親はなおも話し続ける。
「王家の証の首飾りにも似た石がついてるけど、あれはこの石を模したものだと言われているわ。もっとも、あれはただの宝石だけどね」
そう言えば、彼女が晩餐会につけていった首飾りにもこんなのがついていたと彼女は思い出した。
「……それから、もう一つ。それは、昔私も母からもらった短剣よ」
リリアスはもう片方の手にある細長いものを見た。
それを鞘から抜いてみると、鋭い刃が現れる。
「何かの時のために、護身用として渡しておくわ。小さいから初心者のあなたにも使いやすいと思うわよ」
「ありがとうございます……」
リリアスはしみじみと言った。今まで彼女との母親らしい思い出はなかったが、やはり自分の母親なのだと思った。
「あなたが旅に出る決心をしたのはとても勇気がいることよ。そして、私も勇気をもらったの」
母はリリアスに微笑みかける。
「私は今までこうしてひきこもって現実から目をそらしていたけど、もう一度王宮に戻る事にするわ。お父様に謝ってもらわなくちゃ」
リリアスは嬉しくなり、顔を綻ばせながら頷いた。
「お母様、私が戻ってきたら、また一緒に暮らせるのですか?」
「ええ、もちろん」
そして母親は微笑みながらリリアスに言った。
「でも、そうね、その前に……。出発前の思い出に、私と薔薇を見に行かない?」
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