あなたが教えてくれた世界
そして彼女も晩餐会での約束を思い出し、顔を輝かせて言う。
「是非見てみたいです、お母様の大切にしていらっしゃる薔薇」
母は頷いた。
「じゃあ、すぐに支度して行くから、先に行ってて」
「はい!!」
彼女は軽快な足どりで階段を降りていった。
彼女についていこうとしたオリビアは、ふと女王が自分のことを見つめている事に気付く。
「…………?」
今この場にいるのは彼女と自分だけだ。何か用があるのだろうか。
「……あなたが、あの時の子ね……。確か、名をオリビアと言ったかしら」
彼女が何を言っているのかがオリビアにはわかった。
つまり彼女は、オリビアが自分の夫と他人との娘である事を言っているのだ。
すぐさま彼女は身構えた。彼女の存在が判明したときの振る舞いから、どう思っているのかは容易に想像がつく。
この女王に、一体何を言われるのだろうか。
ところが、あろうことか彼女はしおらしく頭をさげた。
「あなたに謝りたいの……。まず、私があなたたち親子を引き離してしまったことを」
オリビアは飛び上がるばかりに驚いた。
「女王陛下、何を申しておられるのですか!?頭をおあげ下さい……!!」
その言葉にも、彼女は頑として頭をあげようとしない。
「女王じゃなく、一人の人間の言葉として聞いて。……言い訳のようだけど、私も若かったのね。後先考えずに安易な行動に走ってしまったの……」
「…………」
オリビアは黙って聞いている。
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