あなたが教えてくれた世界
シドニゥスにフレグリオは強く出れない。 彼はもとは王家の人間ではなく、結婚して 入家した人間だ。
少なくとも本当に王家の血を受け継ぐ女王 、つまり妻のアイトリスの後ろ楯があれば 違うのだろうが、別居中の今は丸腰も同然 。もとの立場でフレグリオより強いシドニ ゥスには弱いのだ。
今も直談判しようとシドニゥスがフレグリ オの自由時間に押し寄せているのである。
「……シドニゥス公爵、こうは思わないか 。ソーパウロはもともとディオバウン王国 のものだったのだから、無理に奪う必要は ない、と」
一応説得を試みてみるフレグリオ。
「私を説得するつもりですか。陛下、認識 が甘いですな。私は簡単に意見を変えるつ もりはありませんよ」
フレグリオは思わず顔をしかめそうになる 。
そんな彼に構わず、シドニゥスはおもむろ に時間を確認すると、
「おっと、もうこんな時間だ。失礼、今日 はマルクス公爵の家の晩餐会に招待されて いるから失礼させてもらいますぞ」
そう言って去って行った。
バランディウム侯爵とカリナルセ伯爵もそ れに続く。
バタン……
執務室の荘厳な扉が、重々しい音をたてて 閉じられた。
「……はぁ……」
フレグリオは無意識のうちに溜め息をつく 。
疲れていた。
彼は椅子に座りなおすと、机の上に積まれ た書類に手を伸ばす。休憩時間のうちに目 を通さなければならない資料だった。
休憩時間にもこのような事をしているのだ から、彼に安息の時間は実質でほとんど無 い。
王位について、こんな生活をしてまで手に 入れたものはなんだったのだろう。
─9─