あなたが教えてくれた世界
彼女は横に首をふった。
「必要なものは全て持ってますし、要望ならアルディスや騎士の方たちに聞いて下さい。……ただ……」
「……ただ?」
オリビアは初めて言葉を濁した。
「……こ、これは、個人的なお願いなのですが……。もし良かったら、ですから、その……抱きしめてもらえますか?母親のように」
女王陛下は頷いた。
「もちろんよ」
彼女は大股でオリビアに歩みより、そっと手をのばし、静かに抱きしめた。そう、まるで母親のように。
「──っ」
彼女は嗚咽をもらす。今までずっと押さえてきたものが溢れてきていた。
* * *
ブレンダ・セルベンダスは皇都ロアルメニアの中央大通りを歩いていた。
明日の作戦出発に向けて、彼女は都に初めて足を踏み入れたのだ。かなり早い時間帯なので、通行人はかなり少なかった。
紫色の髪を頭の後ろで適当に束ね、小さな旅行鞄を手に歩く彼女は、パッと見は普通の町娘のようである。
だが、注意深く観察すると、彼女がただ者ではないことが分かる。
まず、歩き方だ。背筋がぴんと張っていて動きに無駄がなく、まるで鋭利な刀があるいているかのような雰囲気がある。
それと、真っ直ぐ前に見据えられた目は鋭い光を宿していた。
見る人が見れば、彼女が何かしらの武術をたしなんでいる事が分かる。
彼女は細い路地に入った。そして、不意に立ち止まると、いきなり手に持っていた鞄を振り回した。
「うわっ」
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