今日の放課後に。

なるべく、ゆっくり歩いた。

皆がいる所になんて、行きたくない。
おまけに、注目を浴びるなんて。
瑠奈たちの顔が思い浮かぶ。

私の気持ちが伝わってくるのか、月岡くんは、私の歩みに合わせてくれた。

このまま、時が止まれば良いのに。


「小宮さん?」

私はいつのまにか、立ち止まっていた。
足がすくんで、動かない。

「皆待ってるよ?」

月岡くんが、小さく微笑んだ。

嫌だ。

嫌だよ、月岡くん。

誰も私なんて待ってないんだよ。

私、普段すごく強がってるけど、本当は怖いんだよ。

[一人ぼっちとか、かわいそー]
[嫌われてるんでしょ?あの子]

目がね。
語ってるの。

視線が突き刺さるんだよ。

きっと、実験室に入る時はもっといっぱい浴びるんだよ。
あの嫌な視線を。

すごく痛いよ。

すると突然、月岡くんが私の手をとった。

そして、手を繋いだまま、ずんずん歩きだした。

「ちょっ…!」

月岡くんに引っ張られるようにして、歩いた。

月岡くんが振り返る。

「小宮さん。大丈夫。俺も一緒だから」

そして、いつもの優しい笑顔を浮かべた。

それからすぐに、実験室に着いてしまった。

月岡くんがゆっくりと繋いだ手を放した。


「失礼します」

月岡くんの澄んだ声が廊下に響いた。
そして、ドアを開けた。

月岡くんに続いて実験室の中に足を踏み入れた。

先生のしかめっ面と、皆の目線がこちらに向けられる。

痛い。

瑠奈たちは、押し殺すように笑っていた。きっと、私が居眠りしていたことを知っているのだろう。

「お…遅れてすいません」

私は小さな声で、言った。

「いったい、何してたの?」

化学のおばさん教師が呆れたように尋ねた。

「あの…」

言葉に詰まる。

「小宮さんは、急に気分が悪くなったようで、保健室にいました」

月岡くんだった。
まるで、事実のように淡々と述べた。

何でここまでしてくれるの。
月岡くん。

「あら、そうなの!?もう大丈夫なの!?」

先生の態度が急変した。

「あ…はい」

苦笑いを浮かべてみた。

瑠奈たちがざわついていた。

「はい、じゃあ二人とも席に着いて」

私達はそれぞれの席に戻った。

もう、視線はそれほど痛くなかった。
ただ、瑠奈たちを除いて。

「じゃあ、授業続けまーす」

先生が何事も無かったかのように、授業を再開した。

月岡くんと目が合った。

私は口パクで「ありがとう」と告げた。

月岡くんは珍しく、いたずらに笑った。



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