bloody mary
「でも、さすがにカレシはできないよねェ?
ね? 菜々?」
「なんで?」
興味津々といった様子の男子高校生が、ニヤニヤする女子高生に訊ねた。
だぁってねェ? やっぱねェ?
意味ありげに笑いあって、彼女たちが声を揃える。
「「フランケン!」」
(あぁ…)
菜々は力なく睫毛を伏せた。
菜々の左肘の上には傷がある。
父親にビール瓶で殴られた時、出来たものだ。
自分の血など見慣れているはずの菜々でも恐怖を覚えるほどの出血量だった。
流れ続ける鮮血。
床に広がる血溜まり。
それを見た父親は、
『汚ェな!
部屋を汚すンじゃねぇぇ!!』
と、さらに菜々を殴った。
押さえて止血ができるような傷ではなかった。
病院に連れていってもらえるはずもなかった。
だから菜々は…
奥歯を噛みしめて痛みを堪え。
痣になるほど腿をつねって飛びそうになる意識を覚醒させ。
自分で傷を縫ったのだ。
当時菜々は12才。
まだ小学生だった。