bloody mary
「『僕』ってか。
おまえ、本当に悪い奴だな。」
携帯を切ったロン毛の優男に、まるで他人のように隣の席に着いていたオヤジが言った。
派手な柄のシャツ。
ゴツい金のネックレス。
趣味の悪いピカピカした時計。
ファミレスには似つかわしくない…
と、いうワケでもない。
子連れ客も多い昼間とは違い、真夜中近いファミレスは様々な種類の人間の見本市だ。
椅子に片足を乗り上げて騒ぐ、ヤンキー君たち。
ドリンクバーだけで何時間も居座る、帰る場所のないくたびれた中年男性。
人目も憚らず男の胸に顔を埋める赤い髪の水商売風女と、人目も憚らず女の肩を抱く男。
そんな中だから、今時珍しいほどあからさまにカタギじゃないオヤジがジュースを飲んでいても、特に違和感はないのだが…
まだ若い、ドコにでもいそうな優男とそのオヤジの組み合わせは、モロ違和感。
どんな知り合い?
知り合いなら、なんで同席しないの?
ひょっとして、優男クン絡まれてンの?
だが優男は、ニコリとオヤジに微笑みかけた。
「お互い様じゃないっスか。」
「俺は、おまえほどじゃねーよ。」
呆れたように肩を竦めながら、オヤジもニヤリと笑った。