bloody mary
急ぎもせず、一歩ずつ。
マリーが階段を下りる度に縮まる距離。
殺人鬼の中で、ついさっきまで耽っていた陰惨で淫靡な夢は消えた。
その夢の続きのような、不思議な思いも消えた。
警察であれ用心棒であれ幽霊であれ、侵入者だ。
サンクチュアリを侵す者だ。
完全に覚醒した殺人鬼は、これよ見がしに拷問器具を並べた机の上にあるコルト・パイソンに手を伸ばした。
警告も威嚇もない。
「死ね!!」
殺人鬼の叫びと共に、4発の銃声が地下室に木霊した。
声も上げられずコンクリート剥き出しの床に崩れ落ちたのは、殺人鬼のほうだった。
両肩と両膝を正確に撃ち抜かれている。
もう銃を持ち上げることはおろか、逃げることすらできない。
ナンダ?コレ。
ナンデコーナッタ?
ココは、私の楽園なのに。
ココでは、私が神なのに。
他は神に弄ばれるだけの、哀れな人形のはずなのに…
殺人鬼は、信じられない思いで再び侵入者を見上げた。
ついさっき見た時はコートのポケットに突っ込まれていた右手に、銃を握った侵入者を。
警察でも用心棒でも幽霊でもない、侵入の可能性がある者が、殺人鬼の脳裏をよぎった。
死神‥‥‥