bloody mary
さっきからずっとそうだ。
命のやり取りの最中なのに。
傍観者ではなく、まさに当事者なのに。
この男からは切迫したムードが一切感じられない。
顔面に無機物の一発食らって、鼻血噴いてるし。
今も、鼻にティッシュINだし。
そんな、凶暴な瞳を持ちながらもドコか間抜けな殺し屋に、まるで
『パニラアイスとチョコレートアイス、ドッチがイイ?』
なんてノリで生死の選択を迫られてしまった『女』は…
「いやいや…
置いて…かないで…」
ごく当たり前に、そう答えてしまった。
そしてなんの抵抗もなく、自ら手を伸ばして助けを求めてしまった。
助け… なんてあるのだろうか?
伸ばした手の先にいるのは、おそらく殺人鬼なんかよりもずっと危険な男だ。
『ブラッディマリー』なのだ。
あン時死んどきゃ良かった、なんてコトになる可能性大だ。
なのに…
『女』は腕を下ろさなかった。
大きな力強い手に掴まれても、振り払おうとはしなかった。
魔に魅入られる、とはこういうことかも知れない。
『魔』ではなく、死神だが…
『女』の腕を掴んだマリーは、その身体を引き寄せて軽々と肩に担ぎ上げ‥‥‥
顔を顰めた。