bloody mary
菜々はビートルの隣に駆け寄り 呆気に取られて口を噤んだマリーを見下ろした。
少し眉根を寄せて。
少し頬を膨らませて。
あー… 睨まれてるネ。
こりゃ叱られてるネ。
確実に。
「その追跡プログラム、起動するのにIDとパスワードが必要なンですっ!!」
腰に手を当てた菜々は、もう片方の手を上げて助手席に乗ったノートパソコンをビっと指差した。
おっとぉ… まじか。
致命的じゃん。
ソレを聞かずに飛び出しちゃ、そりゃ叱られるわ。
「…ゴメンナサイ。」
項垂れたマリーは、車に常備してあるティッシュを鼻に詰めながら、小さな声で謝った。
女に叱られるなんて、何年ぶりだ?
去り際に悪態をつかれるコトはたまにあったケド。
いつも斜め後ろを着いてきていた菜々は、今この瞬間、俺の横に並んだってワケか…
視線を上げ、どことなく優しい目で菜々を見上げたマリーは…
あるコトに気づき、顔を引きつらせた。
菜々は、さっきは着ていなかったチェックのダッフルコートを身に纏っている。
動きやすそうな、スニーカーを履いている。
小ぶりなリュックまで背負っている。
コレは‥‥‥