bloody mary
Ⅵ
いつもなら、暖かい部屋で美味しい夕飯を食べ終えているであろう時間。
マリーと菜々は物陰に身を隠しながら、漁港の倉庫に紛れて建つ細く小さなビルを見上げていた。
…鼻血はもう止まってマス。
街灯も少ない。
人気もない。
冴え冴えとした月明かりが、寒さを否が応にも際立たせる。
なんつーか… ほんとに日本?
ビートルは離れた場所に停めてきた。
だって…
違和感ありすぎなンだもん。
ドッカで軽トラでもブン奪って来りゃよかった。
まぁ、そんな余裕なかったケドネ?
真っ直ぐココまで車を飛ばしたおかげで、相手との差は随分縮まった。
…
嘘デス。
訂正シマス。
差が縮まったのは、菜々のおかげ。
彼女のナビは完璧だった。
パソコンを片手に渋滞を避けつつ、別ルートを叩き出しつつ、アンジェラを追う。
その指示には一片の迷いもなく フロントガラスを見つめる横顔は自信に満ちていた。
ビックリするわ。
別人か。
いや、これが本当の菜々。
このくらいの決断力と行動力がなければ、12にして自分の傷を自分で縫ったり出来ないだろう。