bloody mary
だが、彼女は返事をしない。
「菜々。」
もう一度、呼んでみる。
やはり返事はない。
それどころか、キョロキョロと眼球を動かして、
『菜々ってどのコ? 呼ばれてるよ?』
みたいな小芝居まで始めた。
あんま笑わせンなって。
菜々はマリーを呼ばない。
助けを乞わない。
彼女にはわかっているのだ。
『仲間』だとわかれば、自分がマリーの足枷になることを。
だから泣きたいキモチを必死で堪え、他人のフリをする。
でも… コレはわかってる?
『仲間』じゃないと判断されれば、菜々はアッサリ殺される。
拳銃も死体も目撃しちゃった一般人を、こーゆー連中がただで帰すワケねぇだろ?
菜々がそこまでの覚悟を持っていたとしても、マリーがソレを許すはずがない。
「菜々!」
鋭くなる呼び声。
チラリとマリーに目を向けた菜々は…
彼の眼差しがいつもと変わらずどこまでも優しいコトに気づいて、とうとう唇を震わせた。
「ごめんなさい… 私… 私…」
よし。
これで菜々は殺されない。
マリーが死ぬまでは。