bloody mary

「謝ンな。
おまえはよくやった。

俺が言ったコト覚えてるか?」


マリーの声の調子が途中で微妙に変化したのを、菜々は聞き逃さなかった。

マリーの言葉。
マリーの仕草。
マリーの微笑み。

マリーがくれた全てを、菜々が忘れるはずがない。


『どんな状況になっても、俺の言うコトを忠実に守れるか?』


菜々は強い光を放つ瞳でマリーを見据えた後、軽く睫毛を伏せた。


「よし、俺を見ろ。
目を逸らすな。
俺だけを、見てろ。」


「随分、残酷な男じゃねーか。
こーゆー場合は『目を閉じてろ』とか言って、死に様を見せないもんだろ?
それとも、余裕か?」


マリーと菜々の会話を聞いていたオヤジが、腹の肉を揺らしながら笑った。

同調するように、他の者らも笑いだす。

二人が仲間だと見なし、自分たちの優位を確信したようだ。

張り詰めていた事務所の雰囲気が緩む。


「まずは得物を捨て」


ゴトっ

オヤジのセリフが終わる前に、マリーは右手の銃を手放した。

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