bloody mary
全ては一瞬の出来事だった。
コチラに向けられた銃口が火を噴く直前、マリーの唇が動くのを菜々は見た。
『走れ』
耳をつんざく銃声と同時に緩んだ男の腕の中から、勢いよく飛び出す。
頬に生温かいモノがかかるが、気にしない。
銃声が響く。
ナニカの破壊音が響く。
悲鳴が響く。
銃声、銃声、銃声‥‥‥‥‥
でも、気にしない。
『拾え』
喧騒の中、マリーの唇の動きだけでその意が理解できた。
走ったままの勢いで足から滑るように身を屈め、さっきマリーが放棄した銃を拾い上げる。
左側から伸びてくる誰かの腕が視界に入る。
また銃声が鳴って、その腕が視界から消える。
でも、気にしない。
瞳に映るのは、ただ一人。
マリーに向かってスライディングしながら拾った銃を手渡す。
直後に、また銃声。
でも気にせずに床に転がったまま隣を見上げると、マリーは優しく笑っていた。
「よくやった。
しばらくソコで伏せてろ。」
風のように遠ざかる広い背中。
もう、彼しか見えない‥‥‥