bloody mary



全ては一瞬の出来事だった。

ポケットから引き抜かれた男の左手には、銃が握られていた。

オヤジが危険を認識した瞬間、銃声が鳴り響き、頭から血を噴いて仰け反った部下の腕からガキが飛び出していく。

扉側にいた部下たちが慌てて銃を構えるが、狙いをつける前に男が二人の真上にある照明器具を撃ち落とす。

降りかかる蛍光灯の破片やトラフから咄嗟に頭を庇おうとしている間に、二人はアッサリと銃弾に倒れた。

ソファーの前に立っていた部下が奇声を発し、懐から抜いた小太刀を振りかざしてテーブルに飛び乗る。

ハイ、撃たれた。

観葉植物の手前にいた部下が、走るガキに手を伸ばす。

ハイ、撃たれた。

みんな死んでいく。
なにも出来ずに死んでいく。

デスクの前にたった一人残っていた部下が、男に背を向けて部屋の隅を目指して駆け出した。

上に逃げる気か?

まるで黒い翼を広げるように、男のコートの裾が翻るのをオヤジは見た。
直前に部下を撃って伸ばしたままの左腕の下から覗く、いつの間にか銃が握られた男の右手をオヤジは見た。

逃げることなど不可能だ…

後頭部を撃ち抜かれ、前のめりに倒れていく最後の部下を視界の端に捉えながら、オヤジは呼吸も忘れて立ち尽くしていた。

風のように迫り来る黒い瞳。

華麗にして壮絶な死の使いから 目が離せない…



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