bloody mary

全ては一瞬の出来事だった。

瞬きをする間もなく、存在していたはずの命は黒い風に吹き消された。

残ったのは、言われた通り床に伏せて動かない菜々。

見栄っ張りデスクの前で固まったままのオヤジ。

そして、デスクを挟んでオヤジの眉間に銃口を向けたマリー。

自らも武器を携えていたことに今更ながら気づいたオヤジは…

そっと銃をデスクに置き、震える両手を頭上に上げた。


「ソッチが『お手上げー』ってか?」


マリーが苦笑した。

これだけの血を流したにも関わらず、高ぶった様子はない。
息も乱していない。
声も口調も、世間話のノリ。

本当に目の前に立つ自然体の男が、この修羅場を作り出したのか?

いや、銃を突きつけられているのは事実。

そして、感情が何一つ読めない男の黒い瞳が、『死』そのもののように昏く静謐であることも事実。

‥‥‥‥‥人間なのか?

喘ぐようにオヤジが呟く。


「おまえ… ナンナンダ…」


「おまえらこそ、ナンナノ?」


オヤジの恐怖と戸惑いに全く気づくことなく、軽く眉根を寄せたマリーはデスクの上の銃に向けて顎をしゃくった。

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