bloody mary
ドアノブがブっ壊れたリビングドアは取り替えられた。
菜々の『秘密』は、未だ秘密のままだが。
アンジェラは髪をバッサリ切った。
染髪もやめたようで、生え際から明るめのブラウンに戻りつつある。
女装男子ももう卒業。
女子トイレに入るコトもなくなり、変態もめでたく卒業だ。
穏やかな日常が戻ると、ニュータイプ菜々は影を潜めた。
だが、消滅したワケではない。
相変わらず謙虚で素直でいちいち可愛いが、ビクビクと人の顔色ばかり伺っていた怯懦の色は彼女の瞳から消えた。
だが、場の空気や人のキモチを敏感に察する繊細さは、優しさ故の美点として彼女の中に残っている。
イイ傾向だ。
菜々も。
アンジェラも。
オスカル(偽)拉致事件でスッタモンダしたものの、終わってみれば、全てがイイ方向に転がっていた。
マリーが菜々を連れ帰って、そろそろ一年が経つ。
三人で暮らし始めて、一年が経つ。
春が来る。
そして、マリーは‥‥‥
「マリー、アンタの洗濯物…
‥‥‥ナニヤッテンノ?」
畳んだ洗濯済み衣類を持ってマリーの部屋の扉を開けたアンジェラは、目を丸くして立ち止まった。