bloody mary
廊下には菜々が立っていた。
掃除機を握りしめて。
足元に視線を落として。
その姿は、いつもよりもっと小さく儚げに見えた。
「どっから聞いてた?」
「…
ここ…ろ の ティッシュ…」
マリーの問いに答える声も低く嗄れ、まるで別人のようだ。
「なら、わかったな?
俺はもう、おまえらと一緒にはいられねぇ。」
マリーの優しい声も、そう。
まるで別人。
「だが、ナニカあったらすぐに駆けつける。
金の心配もしなくていい。
離れていても、おまえらは生涯俺の心のティッシュだ。」
アンジェラは何も言えずに唇を噛んだ。
マリーを止める言葉が、何一つ見当たらない。
菜々は俯いたまま立ち尽くした。
マリーを止める言葉が、何一つ見当たらない。
マリーはゆっくり立ち上がり、身を屈めてスーツケースを手にした。
行ってしまう‥‥‥
「おまえらは日の当たる世界に戻れ。
俺は、俺の道に戻る。」
分岐点などない、血塗られた一本道に。