bloody mary
早春の朝陽が窓ガラスに反射して、キラキラ。
菜々の瞳も、キラキラ。
眩しさに目眩がする。
ねぇ、わかってるの?
さっきから、聖人でも軽く落とせそうな殺し文句吐いてるよ?
アンジェラの部屋の窓を開けながら、菜々ははにかんだ笑顔を見せた。
一緒に暮らすことを決めたあの日と同じ、花が綻ぶような愛らしい笑顔を。
「私、マリーさんが好きです。
だから片足もぎ取ってでも、マリーさんを止めてみせます。」
…
その天使の微笑みと、その物騒なセリフのギャップはナンダ?
菜々が姿を消したベランダを茫然と眺めていたマリーは…
「‥‥‥クっ」
手で口元を覆って吹き出した。
なんてこった。
家庭内ゲリラどころか、二人目の『ブラッディ』が出来上がっちまった。
ほんと、いつも予想の斜め上を行くスゲぇ女だ。
追わなくちゃ。
捕まえなくちゃ。
あんな女、危なくって放っとけねェよ。
マリーは出窓の木枠に片足を掛けて…
飛んだ。
ロープもないし、ベランダまでは結構距離がある。
でも、今なら。
翼が生えた菜々の小さな背中に 手が届くような気がしたンだ。