bloody mary
マリーは廊下を歩き出した。
画鋲と水が散乱する、さっき見たままの部屋の前。
変化はナイ。
気配もナイ。
踏んでしまわないよう気をつけながら画鋲を蹴散らしたマリーは、ドアノブに手をかけ、そっと回した。
ゆっくりと姿を現す、生活感のない殺風景な部屋。
変化はナイ。
人影もナイ。
そもそも、トラップを隠す場所も人が隠れられる場所も、皆無と言えるような閑散とした部屋なのだ。
だが…
いるンだろ?
ウォークインクローゼットの扉が、少しだけ開いている。
不自然なほど静寂に満ちた部屋に、マリーは足を踏み入れた。
すると…
頭上から音もなく影が迫った。
軽い衝撃と共に、背中に課せられるささやかな重力。
首に、腰に、しっかりと絡みつく細い手足。
ロフトなどない部屋にも関わらず、ナゼか上から降ってきた菜々が、おんぶオバケよろしくマリーの背におぶさってきた。
(やっぱりか!)
菜々の行動は、今度こそマリーの想定の範疇だった。
だってあのクローゼットの開き具合、見るからに囮だヨネ?!
そして火影候補の忍者なら、四肢を突っ張って壁と天井の境目に張りつくコトくらい、簡単だヨネ─────?!