月灯りに照らされて
仕事を、初めて、半年が経った頃、テレビのワイドショーで、薫の
結婚の報道があった。

「結婚したのね・・・。薫・・・・・」

うっすらと翠の目に涙が溜まっていた。

薫の報道は、ショックだったが、これも覚悟していたのだから、と、
自分を慰め、薫の事を考えないように、日々、忙しく過ごした。

翠は、その頃になると、仕事にも慣れて来たので、交通遺児、育英会の
ボランティアにも、参加するようになっており、休みの日を利用して、
子供達のケアに当たったり、また話をしたりと、自分が出来る事をしながら、
偶には、陽菜と出かけたりして、なるべく、一人で考えないようにしている
うちに、少しずつ、傷が癒えるのが解った。

段々、こうやって、傷が癒えると、全てが思い出に変わって行くのだろう。

ただ、今は、まだ、時間が必要だった。

「翠ちゃん、今帰り?」

「はい、菱川さんもお帰りですか?」

「うん、翠ちゃん、良かったら、ご飯食べて行かない?」

「そうですね・・・・今日は、冷蔵庫に何もないから、良いですよ」

二人で、いつもの居酒屋に入った。

「「かんぱーい」」

「お疲れ様です。いつも大変ですね」

「そうでもないよ。自分で選んだ仕事だし。俺は、二男だったから、
 結構好きにさせてもらっていたし・・・」

「菱川さん、二男なんですか?」

「うん、長男は、国会議員の菱川 健太だよ・・・」

「えっ、そうなんですか・・・」薫と一緒だ・・・・。

「じゃー、お父さんも国会議員だったんですか?」

「うん、親父も議員だった。俺は、嫌だったから、ならなかったけどね」

選りによって、菱川さんも議員一族とは、顔が引きつりそうだった。
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