月灯りに照らされて
side 薫

一樹が、翠に弁当を頼んでから、毎日、差し入れがあった。

差し入れといっても、はちみつレモンと栄養ドリンクだが、
一樹がそれを持って、事務所のおばちゃん達に渡すと、ものすごく
喜んで、多分麗華の手前、おばちゃん達は、翠の名前は出さなかったが、
誰が差し入れたか、すぐに解ったみたいだった。

たったそれだけで、事務所の雰囲気が変わった・・・・。

翠マジックだ・・・・。

それから、毎日一樹が、差し入れを持ってきた。最終日なんかは、
お稲荷さんが山ほどあって、後援会の皆からも、歓声が上がるほどで、
事務所のテンションは、一気に上がった。

わざわざ、五目稲荷にしてくれた、翠の苦労に、ただ感謝するばかりだ。

麗華は、何も知らずに、『美味しいですね』と、食べていた。

俺は、やはり、選択を間違えたようだ。親戚から、何を言われようが
翠を妻にするべきだった・・・。

今日ほど、身に染みて感じた事はない。

翌日の夕方には、やはり翠らしく、夜食用にと、弁当を作って
くれた。

久しぶりの海苔巻きを食べ、俺は、どうするべきなのか考えていると

後援会会長の奥さんから、帰る前に

「薫さん、女性を見る目がありませんでしたね。確かに麗華さんは
 良い御嬢さんです。でも政治家の妻には向きません。あなたは
 選択を完全に間違えましたね。今回の翠さんの心遣いは、並大抵の
 方には出来ない事です。これからも政治家で行かれるなら、早めに
 ご判断されるべきだと思います。差し出がましい事、申し上げましたが
 これは、後援会の皆を代表して、申し上げました。」

「・・・・はい、十分承知しております。本当に、皆さんには
 感謝しております。私の事も、ご心配頂いき、ありがとう
 ございます。もう少し、お時間を下さい。よろしくお願い
 します。」

後藤さんの言葉に、ただ頭が下がった・・・。
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