月灯りに照らされて
「えっ、変な事聞いて良い?」

「うん、何?」

「麗華さんは、帰って来ない事については、何も言わなかったの?」

「うん、だって、震災の後、忙しかったし、結婚式も中止にしたから
 暫く何も連絡しなかったんだけど、3か月位した時、実家に押しかけて
 来て、でもそのまま好きにさせておいたら、親父が、籍だけでもって
 言うから、仕方なく9月頃だったかなー、籍だけ入れたんだよ。
 でも、実家でも、部屋は別々だったし、あのころは、本当に忙しかった
 から、実家に帰るより、こっちの方が近いから、よくこっちに泊まって
 いたんだよ。」

「何それ、籍だけ入れただけじゃない。」

「うん。だから、仕方なしに、麗華を抱いたのだって、翌年明けて
 からだし、それに、昨日も言ったけど、麗華の中じゃ、射精
 出来なかったから、殆ど、セックスはしてないよ。」

「薫・・・・それで麗華さんは、不満はなかったの?」

「知らない!二人で、話をすることもなかったし。どこかに出かける
 事もなかったし。考えてみたら、二人で出かけたのって、
 翠と別れて、2,3回、食事しただけだったなぁー」

「そんな・・・・・」

「だから、余計麗華の中の俺は、王子様になっていたのかもな。
 二人で、こうやって会話をすることもなかったし、実家に
 いる時は、ご飯タイムは、親父達と一緒だったしな。
 今、考えても、一度もなかったなぁー」

「私には、考えられない・・・・」

「だって、仕方なかったんだよ。忙しかったし、疲れているのに
 あのテンションで来られたら、引くって・・・。
 そうそう、翠が選挙運動の時、お弁当作ってくれた前の晩
 遅く帰ったら、リビングに麗華が居て、それも泣きながら
 「私って、役に立ってないですか?」なんて聞いて来て
 俺、殴りそうになった。でも我慢して、「初めては、そんな
 もんだから」って言ったら、なんて言ったと思う。
 「麗華、頑張るわ!」って言ったんだ。
 あれ聞いたとき、離婚の文字が頭をかすめたよ」

< 182 / 209 >

この作品をシェア

pagetop