月灯りに照らされて
「小さい頃に、本来ならかかる、おたふくにかからず、俺は
 大きくなった。もちろん薫も一緒だ。本当なら自費で予防接種
 を受ければいいんだが、お袋もそんなことまで考えが及ばなくて
 当時、大学生だった俺は、おたふくにかかってしまって、熱が
 かなり高く出たんだ。そのせいで、子供が作れなくなってしまって・・・
 その後、すぐ薫には、予防接種を受けてもらって、その後、検査したら
 薫は、大丈夫だった。親父は、苦しんだけど、橘の家の存続を守る
 ために、薫に家を継がせることにしたんだ。

 橘の家は、元々かなりの資産家の家で、親戚もそこそこの家柄なんだ。
 母は、旧華族の出身で、当時、包丁も持ったことがないほどのお嬢様
 だったらしい。当然親父とも政略結婚だったが、あの二人は、そんな事
 は、全く気にしないで、自分たちの家庭を築き上げたんだよ。
 お陰で俺達は、幸せな家族だったよ・・・・。

 正月に、薫から、本当に子供が望めないのか、精密検査を受けて
 くれと、頼まれた。ただ、その後で、親父から、『次の選挙は出馬
 しない』って宣言されたんだ。その時に、薫に、次の選挙に出る事
 と、君と選挙までに別れるように言われた・・・・。」

「・・・・・・・・」

「薫は、真っ青になっていたよ・・・。あんな薫を見たのは
 初めてだった・・・。薫が居なくなってから、親父に
 『薫の気持ちを考えてくれ』って言ったら、逆に、諭されたよ。
 君が、可愛そうだって・・・・・。お袋でさえ、相当苦労したのに
 庶民の君が、橘に嫁げば、親戚の事、政治家の妻という足かせ。
 普通の子では、荷が重すぎるって・・・・。只の政治家の妻なら
 問題はないが、橘の嫁としては、かなり立場がきつくなるだろうって。
 古い家柄だから、親族がかなり煩い。当然、隙があれば俺達の
 足を引っ張る連中ばかりだ。そんな中に、君を入れるのは、
 心苦しいって言っていたよ・・・。だから、頃合いをみて
 薫から離れて欲しいんだ・・・。君には申し訳ないと思うけど
 この通り、頼む」

と、蓮さんは、頭を下げた。
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