月灯りに照らされて
何も言えず、ただ涙が、ポロポロと、零れ落ちた・・・。

「多分、薫からは言わないだろうと思って、今日、久しぶりに日本に
 帰って来たから、今日のうちに、君に会って話をしておきたかったんだ
 僕は、また明日アメリカに行かなくてはならないから、今回渡米すると
 暫くは、スケジュールが立て込むから、日本へ帰って来れるのは、
 2年後になってしまうんだ・・・。だからどうしても今日しかなくて
 突然来て申し訳なかったね。」

と、蓮さんは、そう言い残して帰って行った・・・。

私は、薫との未来は、ないからと自分に言い聞かせていたが、現実
蓮さんに言われると、殆ど覚悟なんか出来てなかった・・・
薫との生活が、あまりに幸せで、薫と別れるなんて、ありえないんだと
思っていた。だけど今日、現実を叩きつけられて、私の心は、粉々に砕かれて
しまった・・・・「薫・・・・」

私の心は、薫の名前しか出て来ない・・・・「薫・・・薫・・・・

誰のせいでもない・・・偶々出会って、そして恋をして、愛し合って
でも、2人には『結婚』と、言う文字が存在しなかった。
ただそれだけだった・・・・。

呆然としながら、動くことも出来ずにいたら、電話が鳴った。

ハッと、我に返り、相手を見たら、弁護士の南条さんからだった。

涙を拭い、気を取り直して、電話に出た。

「もしもし、南条さんですか?ご無沙汰してます」

「あっ、翠ちゃん、元気にしてた?」

「はい、南条さんはいかかですか?茜さんは元気ですか?」

「あぁー、茜も元気だよ。ところで就活は、上手くいってるの?」

「いいえ、なかなか大変です。」

「そうか、実は、僕の事務所で、一人欠員が出るんで、翠ちゃん
 まだ法律事務所で働きたいようだったら、来てみないか?」

「えっ、良いんですか?」

「あぁー、翠ちゃんさえ良ければ。どうだろう、明日にでも
 事務所に顔を出してくれないか?」

「はい、伺います。」

私は、南条さんと会う約束をして、電話を切った・・・・。
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