月灯りに照らされて
「本当に、心配かけて申し訳ないね。あいつは、きっと今
 世間から注目を浴びていることが、ものすごくストレスになって
 いるんだよ。ましてや、君の事もあるから、マスコミに君の事が
 ばれると、君にまで迷惑をかけるから、仕方なしにアパートへ
 戻ることを承知したんだろうが、薫自身が、かなり君を頼りに
 していたみたいで、部屋は、ビールの空き缶だらけだし・・・。
 薫には、私が引退を発表する前に、君と別れるように
 言ったんだが、薫は、結局言わなかったんだろ!?」

「・・・・・はい・・・・」

「私が、引退すれば、おのずと薫は注目を浴びる。ましてや、兄は
 俳優だ。世間が騒がないわけないのに、アイツは、何を考えて
 いるんだか・・・。親の気持ちを理解できない、バカ息子だよ。
 君との交際については、何も文句はないんだが、結婚となると
 話は、別だ・・・。」

「はい、承知しています。4月に、蓮さんが、わざわざ私に、会いに
 来てくれて、その時に色々と、話をしてくださいました。」

「蓮が・・・・・来たのか・・・その時・・・」

「はい、蓮さんは、自分には子供を作ることが出来ないから、橘の
 家を継げなかった、って言っておられました。そして、私の事も
 決して疎ましく思っているのではなく、私が薫さんと結婚したら
 かなり苦労するから、反対なんだって・・・。私を思っての事
 だから、って・・・」

「そうか・・・・蓮は、そこまで話したのか・・・」

「はい。正直、その時は、ショックでした。最初から薫さんとは
 住む世界が違うのは解ってましたから・・・。でも薫さんの
 人柄に惹かれて、付き合うようになり、ますます自分が
 薫さんを好きになって行くのを、止めることは出来ませんでした。
 ただ、頭の片隅には、必ず、『結婚は出来ない』という
 事実だけは、ありました。それでも、薫さんから、サヨナラを
 言われるまでは、私なりに薫さんを支えてやりたい。側に
 いたい。だから私の出来ることは、全てやってやりたくて、今まで
 来ました。私が、一番望むのは、薫さんが、幸せであることだけです。
 彼が、幸せでいてくれれば、たとえ私が隣に居れなくても、
 私は、幸せなんです。ですから、ご心配されるようなことには
 なりませんので、ご安心してください。出来れば、彼を愛して
 くれる女性を、側に置いてあげてください。お願いします。」

「・・・・・・君の気持ちは十分に解った・・・申し訳ないが
 暫くは、まだ薫を支えてくれるかい!?」

「はい、大丈夫です。」

そして、翠は、薫の父に送られて、マンションへ戻った。
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