月灯りに照らされて
翠は、呆然としながら指輪を眺めてた。

「かおる・・・・・」

「翠、貸して」

薫は、翠から指輪を取ると、翠の右手の薬指のペアリングの上に、嵌めた。

それは、セットのようにぴったりと合い、とても綺麗だった。

「翠、話があるんだ・・・」

「うん・・・何?」

翠は、いよいよだと思った。

「翠、俺の結婚が決まった。」

「・・・・・・そう・・・・」

「うん、相手は、北白川コーポレーションの娘だ。式は、来年の
 4月になった・・・。」

「そっか・・・・・すぐだね・・・・」涙が、溢れそうだった。

「翠、今までありがとう。最後なのに、こんな指輪を贈って
 嫌な奴だと思うだろうけど、俺は、心は、いつまでも翠だけだ。
 それを忘れて欲しくなくて、この指輪を買った。
 もし、翠の中で、俺よりも好きな奴が出来た時には、これを
 指から外してくれ・・・。せめてそれまでは、俺の気持ちを
 ここに置いてくれ・・・。ゴメンな、最後まで女々しくて」

「ううん、ありがとう。薫の気持ちは十分に伝わったよ。」

もう涙を、止めることが出来なかった翠は、ポロポロと涙が
零れ落ち、カーペットに涙のシミが、一つ、また一つと
出来ていた・・・。

そのまま、薫と抱き合いながら、二人で泣いた。

薫も、泣いていた・・・・。翠を抱きしめながら、薫の涙が
翠の頬に伝わって・・・本当に、今日が最後なんだと・・・・・。
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