蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
一章
1.神の目を盗んで
<side.慧>
夕闇の中、窓脇に置いた観葉植物の影が床に長く伸びている。
慧は静まり返ったリビングのソファーに足を組んで座っていた。
その手には携帯がある。
携帯の画面に表示されているのは、国際電話の番号だ。
やがて通話口から、低い男の声が響いてきた。
『……お前から電話とは、珍しいな。要件の想像はつくが』
「アヤから聞いてね。まさか父さんが、本物の『父さん』だったなんてね」
慧の言葉に、電話越しにくっと笑う声がする。
幼い頃は身近で聞いていた声だが、今はこうして電話越しに聞くことすらほとんどない。
『……お前の言いたいことはわかっている。口止めだろう?』
「話が早くて助かるよ」
慧はその唇にかすかな笑みを乗せ、言った。
しばしの沈黙の後、電話越しに低い声が響く。
『時世たちにこのことは話さない、認知もしない。……それでいいか? 誓約書でも書くか?』
「そんなの書いたら逆に危険だよ。胸にしまって墓まで持って行ってくれればいい」
と慧が言うと。
電話の向こうの声の主は小さなため息をついた。