蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
4.疑惑の向うに
<side.慧>
20:00。
慧は自室でノートパソコンを前にキーボードを叩いていた。
その脇には民法の本が開かれた状態で置かれている。
「……という理由により、民法752条に従いこの権利を……」
慧は文章を打ち込みながら、ふと目を伏せた。
まさかこんなところで弁護士の知識を使うことになるとは思ってもみなかった。
こうなると、入籍しているかどうかというのはかなり大きい。
この『権利』を行使できるのは、あくまで自分が絢乃の『夫』だからだ。
――――例え誰が相手であっても、絢乃は渡さない……。
そのことを相手と、そして絢乃自身にはっきりと伝える必要がある。
慧は自嘲するような笑みを浮かべた。
絢乃を手元に置いておくためなら、自分はいくらでも冷静に、そして非情になれる。
慧はだいたい打ち終わったところで手を止めた。
そのとき。