蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
2.夜桜の下で
その後、二人は上野の駅近にある百貨店へと向かった。
絢乃の仕事用のスーツがヘタッてきたため、明後日から4月になるのを機に何着か新調することにした。
スーツ売り場は春に入社する新人やその親たちで混雑しており、目当ての棚に行くのも一苦労だ。
まずはシャツから見ようか、とシャツの棚で商品を選んでいた絢乃に慧が声をかける。
「お前に似合いそうなのを見繕ってきたよ~」
見ると、慧の手にはスーツが三着ほどある。
よくこの人混みの中で持ってきたものだと感心しながら、絢乃は慧が持ってきたスーツを見た。
慧が持ってきたのは紺やグレーをベースにした上品な雰囲気のスーツで、生地も柔らかく、とても着心地が良さそうな感じだ。
慧は自身の服にはまるで無頓着だが、他人の物を、特に絢乃が身に着ける物を選ぶセンスはかなり良い。
それは昔から慧が絢乃の一番傍に居り、見守って来たからなのだろうが……。
絢乃は頷き、何枚かのシャツを手に慧に向き直った。
「ありがと。じゃあ試着してみるね」
と、試着室に向かった絢乃だったが……。