蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
慧は淡々と言う。
沙耶は何も言えず、俯き携帯を握りしめた。
やがて、凍るような沈黙の後。
電話越しに、慧がため息交じりに言った。
『……あの時、君にはっきりと言っておけばこんなことにならなかったのかもしれない』
「慧……」
『今さらだけど、言っておくよ。……彼女がおれを騙したわけじゃない。彼女を騙して結婚したのは、おれだ』
慧の言葉が沙耶の胸を抉り、貫いていく。
喉を震わせる沙耶に、慧は少し硬い声で続ける。
『昔。君と付き合い始めた時、おれは君に『忘れられない人がいる』と言ったと思う』
「……っ……」
『彼女こそが、その人だ。彼女はずっとおれを実の兄のように思ってきた。そんな彼女を、おれは騙して結婚した』
「…………」
『彼女は悪くない。むしろおれの被害者だ。……だから彼女を恨むのは筋違いだ。憎いならおれを憎めばいい』
「……慧……っ」
『彼女を傷つける者をおれは許さない。おれの持てる力の全てを使って排除する。……例え相手が君であってもね』