蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
試着に夢中で確認してなかったが、あの仕立てと着心地で安いはずがない。
しかも三着だ。
真っ青な顔で財布を取り出そうとした絢乃だったが、その手を慧が押しとどめた。
「いいよ、おれが出すから」
「でも、慧兄……っ」
「衣食住を提供するのは夫の仕事。これからお前の身の回りの物はおれが全部出すから。いいね?」
慧はにこりと笑って言う。
その笑顔に逆らえぬものを感じ、絢乃はうっと息を飲んだ。
これまで絢乃は慧に住居と食費の面倒を見てもらっていたが、自分の服やシャンプーなどの日用雑貨は自分で購入していた。
しかし結婚後はそういったものも全て慧が出している。
実質『養われている』状態だ。
絢乃の稼ぎは日本のサラリーマンの平均年収を若干下回るくらいで、特に悪いわけではない。
しかし慧はその約四倍の年収だ。
そんな慧からしてみればスーツなど大した金額ではないのかもしれない。
が、全て出してもらうというのはさすがに気が引ける。